筑後川戦記(下)歩き出してから

23km地点、右足ふくらはぎさんが「きゅるきゅる」言い出した。
しかし、計算上残りの19.195kmを歩いても間に合う。
11分/キロペースで移動し続ければ間に合うのだ。


1kmごとに距離表示がるので、1kmごろにタイムを確認しながら進む。
最初の3kmぐらいは余裕だった。


ところが、26km地点あたりから、人類がかつて体験したことがない痛みが襲う。
両足のうらさんが痛いのだ。


左足のうらさん 「痛いよう。痛いよう。」


右足のうらさん 「この靴、クッション効いてへんのちゃうん。鉄板履いてるみたいやで。」


左足のうらさん 「多分、靴さんは悪くないよ。減量失敗したのがいけないんだよ。」


右足のうらさん 「足の裏の皮と骨のあいだの何もかもがもう、ぺっちゃんこのグッチャグチャやで。」


両足のうらさんから、悲鳴と非難、苦情があがりはじめた。
両足のうらさんが痛いから、ゆっくりそろそろしか歩けない。
ゆっくりそろそろ歩くから、11分/キロを保つのが困難になってくる。



「遠くにキロ表示が小さく見えて、時間はあとおよそ30秒。」という場面が増え、
あわてて最後の100mぐらいをかけこみ、ギリギリ11分セーフという苦戦が続く。


やがて、あわてて最後を走っていたら、


右足ふくらはぎ 「きゅるきゅる。きゅるきゅる。」


右足ふくらはぎさんが激しい警報を鳴らす。
走れず、11分をオーバーする区間が増える。
このままでは計算上、「ギリギリアウト」だ。


このピンチに、さすがに俺は天才ランナーだった。
足のうらに格段にやさしい早歩き方法を編み出した。



草の上を歩くのだ!



枯葉の上とか、めっちゃふわふわ、やわらかい。
ふとんの上を歩いているようだ。
(ちなみに、このように前方のランナーが見えない一人旅が長かった。)


左足のうら 「これ、すっごくいいよ!」


右足のうら 「やるやんけ!」


両足のうらさんも大喜びだ。
凸凹だし、足の上げ下げは大変な気がするが、
両足のうらの負担はぐっと軽くなる、天才走法!
ところが、落とし穴があった。



(たぶんこの筋肉)


左脚の太もものうら 「ぐるるるるるる。おい、何してくれんねん!ぐるるるるるる。」


今までどのレースでも悲鳴を上げたことがなかった大きな筋肉、
左脚の太もものうらさんがぐるぐる唸りだしたのだ、つる直前。
ふくらはぎさんの悲鳴よりごつい、猛獣の唸り声のような悲鳴。
この走法、足のうらには優しくても、太ももには重労働だった。


あわててアスファルトの路上に降りた。


ルフィ 「両足のうらさん、すまん。太ももがつったら、リタイヤなんだ。」


左足のうら 「ひどいよ。ぼくたちももう、ボロボロなのに。」


ルフィ 「お願いだ。こらえてくれ。」


右足のうら 「こうなったら、とことんやったろうやんけ。でもな、次はやせろよ。ちゅうか、次もうやめてくれへんか。」


体中の仲が悪くなっていく。
筑後川のコースはずーっと平坦。
景色もほとんど変わりやしない。
沿道の声援もない、沿道がないから。


それでも、3kmごとに給水ポイントがあり、エアーサロンパスをかけてくれる救護班がいる。
それに加えて、コース上を自転車で行ったり来たりしてくれている救護班が少なからずいて、
彼らもみんな、エアーサロンパスを携えてくれている。


救護班 「エアサロいかがですかー。」


って、球場の売り子がビール売ってるみたいに声かけてくれる。


大勢の救護班の皆さん、本当にありがとうございました。
合計30回以上、エアーサロンパスをかけていただきました。
みなさんのおかげで太ももさんとふくらはぎさんは持ちこたえました。


バナナもアンパンも塩もスポーツドリンクも最後まであった。
どんだけ飲み食いしたことか、それでもトイレは前半の1回だけ。
飲んでも飲んでも汗になり、のどが渇いた。


右ふくらはぎさんをごまかし、
左太もものうらさんをごまかし、
両足のうらさんに負担をかけまくりながら、ついにあと0.195km。
残り時間はあと5分以上あるから、余裕だが、あえて危険をおかそう。


最後の0.195kmだけでも走ろう。
ここでつってしまって、直前リタイヤでも構うもんか。


最後の0.195kmをそれなりのスピードで力走、
脚はつらず、歩いている数人を抜いてゴールした。
ここ走ってなきゃ、マジで最下位だったんちゃうか。



九州大陸制覇!


筑後川大自然と、運営スタッフのみなさんに感謝。
本当にありがとうございました。